2024
06.05

「飯塚事件」32年の重い扉、再び閉ざされる

事件・事故

32年前の1992年、福岡県飯塚市で起きた小学生2人殺害事件、通称「飯塚事件」。この冷酷無残な事件で死刑が確定し、2008年に執行された久間三千年元死刑囚の再審請求が、福岡地方裁判所によって退けられました。弁護側が提出した新たな証拠は「信用できない」と判断され、再審開始の扉は閉ざされたままです。

1. 事件の概要

1.1. 1992年の出来事

1992年2月20日、福岡県飯塚市で当時小学1年生の女児2人が登校途中に行方不明になる事件が発生しました。翌21日、隣接する甘木市(現・朝倉市)の山中で2人の遺体が発見されました。司法解剖の結果、2人は首を絞められて殺害されたことが判明しました。

事件発生から5日後、県警は被害者と同じ校区に住む久間三千年(当時54歳)宅を訪問し、事情を聴取しました。久間は定職に就いておらず、妻の送迎以外は時々パチンコ店で遊んでいたといいます。

1.2. 久間三千年への死刑判決

捜査の過程で、久間の所有する紺色のワゴン車が目撃されたことや、車内から被害者と同じ血液型の血痕が見つかったことなどから、久間は重要参考人となりました。1994年9月、久間は逮捕・起訴されました。

一審の福岡地裁は1999年9月、状況証拠から久間を有罪と認定し、死刑を言い渡しました。控訴審の福岡高裁も2001年10月に控訴を棄却しました。最高裁は2006年9月に上告を棄却し、死刑が確定しました。2008年10月28日、久間は70歳で死刑が執行されました。

2. 再審請求の経緯

2.1. 一貫した無実主張

久間は逮捕時から一貫して無実を主張し続けました。自白や直接的な証拠はなく、有罪判決は状況証拠の積み重ねによるものでした。

"アリバイ以上のものを持っている。100%関係ないということを、あんたたちが即信じるわ。やっていないものをやったと思われたことだけは、これは必ず白黒つける。"

2.2. 新証拠の提出

2009年10月、久間の妻が第1次再審請求を行いましたが、棄却されました。2021年7月、新たな目撃証言を新証拠として第2次再審請求を申し立てました。

新証拠の1つ目は、事件当日に被害女児に似た2人を乗せた白い軽自動車を目撃したという証言です。運転手は丸刈りで色白の男性で、久間とは特徴が異なっていました。

2つ目は、確定判決で「最後の目撃者」とされた女性が、「事件当日ではない」と当時の調書を否定する証言です。この証言を基に連れ去り時間と場所が認定されていました。

3. 福岡地裁の判断

3.1. 新証拠の信用性を否定

福岡地裁の鈴嶋晋一裁判長は、新証拠について以下のように判断しました。

  • 男性の証言: 「事件から26年以上経った今でも、面識のない女児2人の顔をはっきり覚えているのは不自然」
  • 女性の証言: 「捜査機関が無理に記憶と異なる調書を作成する動機や必要性は見いだせない。女性の証言は理由なく変遷している」

3.2. 再審開始を認めない決定

鈴嶋裁判長は、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められない。再審請求は理由がない」と述べ、再審開始を認めませんでした。

弁護側は決定を不服として即時抗告する方針ですが、検察は「裁判所が適切な判断をされたと考えている」とコメントしています。

4. 弁護側と検察の反応

4.1. 弁護側の落胆

弁護団は地裁の判断に強く落胆しています。

“新旧の証拠を真摯に検討する姿勢を放棄したものというほかなく、裁判所としての使命に反するものである。”
— 飯塚事件弁護団・岩田務弁護士

“我々が予想した最悪のパターンだった。この証言の価値を認めて再審を開始することが、我が国における死刑制度の根幹を揺るがしかねないという思惑に縛られて、人間としての良心に基づく貴重な証言の価値を認めようとしなかった。”
— 弁護団

4.2. 検察の評価

一方、検察側は地裁の判断を支持しています。

“裁判所が適切な判断をされたものと考えている”
— 福岡地方検察庁

5. 32年目の正義

5.1. 冤罪事件の可能性

32年の時を経ても、この事件の真相は依然として闇の中です。弁護団は新証拠が示す通り、久間が冤罪に巻き込まれた可能性を主張しています。

確かに、DNA鑑定の改ざん疑惑や、目撃証言の信憑性の問題など、確定判決を覆す要素は存在します。しかし一方で、血痕や繊維片、アリバイの有無など、有罪を支持する状況証拠も多数あります。

5.2. 真相解明への願い

遺族の心情を思えば早期決着を望む気持ちも理解できますが、司法の役割として、疑わしい点があれば徹底的に真相を解明することが重要です。

今回の決定に満足できる人はいないかもしれません。しかし、法の下の正義を守ることが何より大切です。32年の重い時を経て、この冷酷な事件の真実が明らかになることを願うばかりです。

引用元:

  1. 飯塚事件、再審請求を再び棄却 死刑執行後の再審を認めず 福岡地裁
  2. 「飯塚事件」2度目の再審請求 5日可否決定
  3. 32年前の「飯塚事件」で再審認めない決定 福岡地裁
  4. 飯塚事件の再審認めず、福岡地裁 92年の2女児殺害で死刑執行
  5. 【詳しく】裁判長「女性の証言は信用できない」
  6. 飯塚事件 – Wikipedia
  7. 飯塚事件 – 日本弁護士連合会
  8. 「飯塚事件」第2次再審請求が棄却 経緯とは
  9. 【飯塚事件】”再審の扉”またも開かれず 専門家に聞く「妥当」「門前払い」
  10. 飯塚事件の再審開始認めず 元死刑囚の第2次請求 福岡地裁決定
  11. 【飯塚事件】第2次再審請求の行方③DNA型鑑定 一部を切り取った鑑定写真 証拠能力を事実上否定
  12. 死刑が執行された後に冤罪と判明する、なんてことが…~「飯塚事件」の現在地

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