みうらじゅんがバズっている理由 – 「アウト老のすすめ」と独自の世界観が再評価される時代

みうらじゅんがバズっている理由 – 「アウト老のすすめ」と独自の世界観が再評価される時代

2025年、サブカルチャーの帝王・みうらじゅんの名前が再び世間を賑わせています。漫画家、イラストレーター、エッセイストとして多彩な活動を続ける彼が67歳となった今、なぜこれほどまでに注目を集めているのでしょうか。「マイブーム」「ゆるキャラ」など、数々の流行語を生み出してきた男の最新ブームの源泉に迫ります。

みうらじゅん

出典:Yahoo!ニュース(Yahoo!ニュース記事

「アウト老のすすめ」がベストセラーに

みうらじゅんの最新著書『アウト老のすすめ』(文藝春秋)が、発売以降続々と重版を重ね、Amazonの近現代エッセー部門で1位を獲得するなど大きな話題となっています。2025年4月22日に発売されたこの著書は、「アウト老(ロー)とは、はみ出し老人のことなり」という刺激的なコピーで始まります。

大人げないまま新型高齢者となったみうらじゅんの珍妙な日常や妄想、愛のメモリーがつまった本書は、息苦しい現代社会に風穴を開ける珠玉のエッセイ集として多くの読者の心を捉えています。

「老いるショック」をネタにしながら、「アウト老の辞書に終活という文字はない。あるのはくだらないとされるものを集め続ける”集活”のほうだ」と序文で宣言するなど、従来の「素敵に老いる」というコンセプトを覆す新鮮な視点が共感を呼んでいます。

アウト老のすすめ書影

出典:Amazon(Amazon商品ページ

バズりの秘訣は「誤解」にあり

みうらじゅんといえば、1997年に新語・流行語大賞にノミネートされた「マイブーム」の生みの親として知られています。この言葉が爆発的に広まった理由について、みうらじゅん自身が興味深い見解を示しています。

「マイブームという言葉は今の時代のメインカルチャーに対する、サブカルチャー側からのカウンターパンチである」と大学教授に解説されたことについて、みうらじゅんは「それがたぶん、『誤解』の始まりだったと思いますね(笑)」と語っています。

実は、みうらじゅんは『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングに呼ばれた際、何気なく「マイブーム」という言葉を使ったところ、会場から笑いが起こったことがきっかけだったといいます。

「結局のところ、流行語というのは、世間の『誤解』から生まれていくものなんでしょ(笑)」というみうらじゅんの言葉からは、バズりを生み出す彼独自の視点が垣間見えます。

みうらじゅん2

出典:Yahoo!ニュース(Yahoo!ニュース記事

「一人電通」で仕掛けるブームの裏技

みうらじゅんは自らを「一人電通」と称し、アイデア出しから企画会議、営業、接待、ときには自ら広告塔としてPR活動も一人でこなす、世界一弱小な広告代理店として活動してきました。

例えば、映画評論家の水野晴郎さんが監督した『シベリア超特急』について、「シベ超」というニックネームを複数の雑誌で提案し続けた結果、「あれ?今、『シベ超』って流行ってるの?」という「誤解」を生み出し、最終的には制作者本人にも認められ、その後シリーズ化した作品となりました。

「ブロンソンズ」の活動や大木こだま・ひびきの『ギャグ100連発』の発案など、みうらじゅんの「一人電通」活動は多岐にわたります。表向きのヒット作だけでなく、「ナイブーム」と呼ばれる世間に知られずに消えていったものも数多くあるといいます。

エロスクラップは人生そのもの

みうらじゅんが45年以上にわたって続けている「エロスクラップ」(通称・エロスク)活動も、彼の名を広めた重要な要素です。エロ本から気に入った写真を切り取り、スクラップブックに貼り続けるという活動は、2025年5月の時点で841巻に達しています。

「今日(2025年5月12日)貼り終わった時点で、841巻になりました。千摺り、ならぬ千貼りも夢ではない域に達しました」と語るみうらじゅん。「還暦になったときは、500巻でした」と、その情熱は衰えるどころか加速しているようです。

エロスクラップ

出典:Yahoo!ニュース(Yahoo!ニュース記事

この執念とも言える継続力の源泉は「見せ前」の精神だといいます。「怪獣、仏像、エロと、僕は絶えず読者を想定して製作してきましたから、漫画も同じです。要するに、いつも見せ前(見せる前提)で作ってるわけですよ(笑)」

エロスクラップ1巻目は当時住んでいたアパートの下の階の友人に貸していたそうで、「いかにして彼に喜ばれるか」という編集方針を掲げて作り続けたと振り返ります。自己満足だけでは終わらない、他者への視点がみうらじゅんの創作の原動力になっているようです。

2025年注目のものベスト3

2025年2月17日に放送された「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送)で、みうらじゅんは「2025年 これに注目」ベスト3を発表しました。

第3位は『ティモシー・シャラメ』
第2位は『クロミフル』
第1位は『白川郷』

この中でも特に注目されているのが第2位の『クロミフル』です。これはサンリオのキャラクター「クロミ」の20周年と関連しています。2025年はクロミの20周年と、姉妹キャラクターであるマイメロディの50周年が重なる「メロクロ周年イヤー」として大々的に展開されています。

「クロミフル」とは、「クロミ」と「フルフィル(fulfill:満たす)」を掛け合わせたみうらじゅんの造語と思われますが、このワードがSNSや若者の間で広がりつつあります。特にアパレル業界では「クロミ」とのコラボ商品が次々と登場し、人気を博しています。

なお、2025年のサンリオキャラクター大賞では、クロミは4位にランクインしています(1位はポムポムプリン)。クロミの人気は高く、特に「世界クロミ化計画」というコンセプトでの展開が注目を集めています。

33年後の約束を果たす

2025年3月3日、みうらじゅんといとうせいこうが京都・三十三間堂で会う約束が実現し、話題となりました。これは、33年前に出版された彼らの共著『見仏記』第1巻の末尾に「三十三年後の三月三日、三時三十三分に三十三間堂で会おう」と書かれていたことによるものです。

この約束は、33年の月日を経て、まさに2025年3月3日15時33分に実現。多くのファンが集まる中、二人は感慨深げに再会を果たしました。さらに、「また33年後に三十三間堂で会おう」と新たな約束も交わし、SNSでも大きな反響を呼びました。

三十三間堂での約束

出典:日経アート(イメージ)

「老け作り」と「アウト老」の哲学

みうらじゅんは「アウト老のすすめ」で、従来の「若づくり」に対して「老けづくり」を提唱しています。年齢を重ねるにつれて無理に若く見せるのではなく、積極的に老いを受け入れ、楽しむという考え方です。

「アウト老の辞書に終活という文字はない。あるのはくだらないとされるものを集め続ける”集活”のほうだ」というみうらじゅんの言葉は、現代の終活ブームやミニマリスト志向に一石を投じています。

たとえば耳鳴りという老化現象を「蝉を耳の中で飼っている」「年中夏休み気分でいられる」と言い換えたり、イライラを抑えるために『おさるのジョージ』に出てくる黄色い帽子のおじさんのぬいぐるみを拝んだりと、一風変わった対応が読者の笑いと共感を誘っています。

みうらじゅんがバズる理由

みうらじゅんの活動が今なお多くの人々に支持される理由は、既存の価値観に縛られない自由な発想と、強烈な個性にあると言えるでしょう。「マイブーム」「ゆるキャラ」などの言葉を生み出した言語センス、45年以上続けているエロスクラップに見られる執念、そして「アウト老」という新たな老いの捉え方の提案は、多くの人が抱える生きづらさや息苦しさを解放してくれるものです。

また、みうらじゅんの「誤解から生まれるブーム」という考え方は、現代のSNS時代におけるバズりのメカニズムを先取りしていたとも言えます。何かが広まる過程で本来の意図から離れて独自の解釈が生まれ、それがさらに拡散していくという現象は、今日のミーム(インターネット上で伝播していく文化的要素)の特性と共通しています。

世間の価値観に流されず、自分の趣味や興味を突き詰める姿勢、それを「見せ前」として他者と共有する開かれた態度が、みうらじゅんの魅力であり、バズり続ける秘訣なのでしょう。

まとめ:時代が追いついたみうらじゅん

みうらじゅんがバズっている理由を探ると、彼自身が築き上げてきた独自の世界観と、それが今の時代に共鳴している点が浮かび上がります。「アウト老のすすめ」でベストセラー作家となった今、みうらじゅんが生み出してきた数々の概念やムーブメントが再評価されています。

45年以上続けてきたエロスクラップは841巻に達し、33年前に約束した三十三間堂での再会は実現し、新たに造語した「クロミフル」は若者の間で広がりつつあります。そして「老けづくり」「アウト老」という新たなライフスタイルの提案は、高齢化社会の日本において多くの人の共感を呼んでいます。

みうらじゅんがバズっている本当の理由は、彼が時代の先を行きすぎていたからかもしれません。今、ようやく時代が彼の世界観に追いついたのです。「アウト老のすすめ」がこれほど支持されているのは、画一的な価値観や「正しい老い方」から解放されたいと願う人々の気持ちの表れではないでしょうか。

マイブームから始まり、アウト老へ。みうらじゅんの言葉はこれからも私たちの生き方に新たな風を吹き込み続けることでしょう。

参考文献

[1] Yahoo!ニュース「マイブームは誤解から生まれる!みうらじゅん、バズりの極意を語る」(2025年6月27日), https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/019cae415a1666c5179ddca57c46efb314388f09

[2] Yahoo!ニュース「エロスクラップは人生そのもの みうらじゅん、ブレない情熱の源泉」(2025年6月30日), https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/173553f3f8765368c21928ad39a7a06b69286f5b

[3] ニッポン放送「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」(2025年2月17日), https://www.1242.com/takada/takada_blog/20250217-333650/

[4] Web読書人「【今週はこれを読め! エンタメ編】みうらじゅん『アウト老のすすめ』」(2025年5月6日), https://www.webdoku.jp/newshz/takato/2025/05/06/173300.html

[5] サンリオ公式サイト「My Melody & Kuromi 50th&20th Anniversaries」, https://www.sanrio.co.jp/specialsite/mymelody50kuromi20/

[6] 関西テレビ「みうらじゅん・いとうせいこう33年後の約束『三十三年後の三月三日、三時三十三分に三十三間堂で会おう』」(2025年3月5日), https://www.fnn.jp/articles/-/838037

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