
出典:TBS NEWS DIG(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rcc/1450709?display=1)
なぜ今、福山駅のバスターミナル移設が必要だったのか
福山市がバスターミナルの北口移設を検討してきた背景には、現在の駅前広場が抱える深刻な問題があります。1977年から整備された現在の駅前広場は約40年が経過し、施設全体の老朽化が進んでいました。
現在の駅前広場が抱える課題
現在の福山駅南口の駅前広場では、バス、タクシー、一般車両が狭いエリアに集中し、特に朝夕のピーク時には深刻な混雑が発生しています。1日約700便のバスが発着する中で、道路幅の狭いエリアを通行することが大きな問題となっていました。
また、2020年12月に実施された市民アンケートでは、現在の駅前広場の環境・空間に対する評価で「十分・やや十分」と回答したのはわずか約10%に留まり、「不十分・やや不十分」と回答した市民が約50%に上るなど、市民の満足度が非常に低い状況でした。

出典:山陽新聞(https://www.sanyonews.jp/article/1659820)
全面広場化構想の全貌 なぜバスターミナルを北に移す必要があったのか
福山市が描いていた構想は、単なるバスターミナルの移設ではありませんでした。駅南口を「全面広場化」し、人々が憩い、集える空間に変貌させる大規模な都市再生プロジェクトだったのです。
「ウォーカブル」な空間への転換
国土交通省は2021年9月に「駅まちデザインの手引き」を作成し、「交通結節点が、魅力あるまちづくりの支障となるような事象が生じている」として、駅前広場を「将来の魅力的なまちづくりの中核を担う場所」として位置づけることを提唱しています。
福山市もこの方針に沿って、約38,000人/日が利用する福山駅の駅前広場を「居心地の良い空間(ウォーカブルな空間)」に変える計画でした。これにより、歩行者の東西方向の回遊性を高め、周辺街区との連携を強化することで、にぎわいから生まれる経済の好循環を創出することを目指していました。
北口移設による交通機能の分離
限られた駅周辺の空間の中で、市が保有する土地を有効活用し、駅南側の広場再編と交通結節機能の確保を両立させるため、北口にバスターミナルを配置する計画でした。
計画では、2階建ての施設を北口広場に設け、1階にバスの乗降場を配置する予定でした。さらに、利用者の利便性を考慮し、南側にもバス乗降場を配置することで、利用者が南北の乗降場所を選択できるような設計も検討されていました。

出典:経済リポート(https://keizai.info/special-feature/147886)
計画中断の決定的な理由 JR西日本グループの施設撤去問題
さんすて福山の一部解体が必要だった背景
バスターミナルを北口に移設するためには、バス専用道路の整備が不可欠でした。この専用道路を設けることで、一般車とバスの通行を分離し、交通渋滞を回避する計画でした。
しかし、この専用道路を確保するためには、福山駅に隣接するJR西日本グループの商業施設「さんすて福山」の一部を解体する必要がありました。福山市はJR西日本と協議を重ねてきましたが、2025年7月上旬、JR側から決定的な回答が示されました。
JR西日本からの回答と計画中断の決定
枝広直幹福山市長は定例会見で、JR西日本から「建物には色々な設備や機器があり移転・維持が困難だ」という意向が市に示されたことを明らかにしました。この回答を受け、市は駅北口へのバスターミナル移設計画を一時中断することを決定しました。
JR西日本の懸念は、単に建物を解体するだけの問題ではありませんでした。耐震性への影響、空調設備などのインフラへの影響など、商業施設の運営に関わる根本的な問題が指摘されていました。
市民の反応と対立する意見
「福山駅北口広場を守る会」の反対活動
計画の発表当初から、市民団体「福山駅北口広場を守る会」は強い反対の声を上げていました。同団体は、バスターミナルの建設により景観が損なわれることや、北口広場の緑豊かな環境が失われることを懸念していました。
2025年2月には公開質問状を市に提出し、「勇気ある引き返しを」と計画の見直しを求めていました。また、同年5月には駅前で署名活動を実施するなど、精力的な反対活動を展開していました。
バス事業者からの懸念
バス事業者からも計画に対する懸念の声が上がっていました。主な問題点として以下が挙げられていました:
- 運転手の労働時間増加:迂回による走行距離の延長で労働時間が増加
- 運営コストの増大:人件費の増加による経営への影響
- 二酸化炭素排出量の増加:走行距離増加による環境負荷の増大
広場化を支持する市民の声
一方で、現在の駅前広場の問題を解決し、より魅力的な空間にすることを支持する市民の声もありました。特に、東西の回遊性向上や、憩いの場としての機能向上を期待する声が多く聞かれていました。

出典:TBS NEWS DIG(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rcc/1039073?display=1)
今後の見通しと代替案の可能性
枝広市長の見解 「方針は全くなくなったと思わない」
計画の一時中断を発表した枝広市長は、記者からの質問に対し「(北口への移設は)ゼロベースになったわけではない」「まったく無くなったとは思っていません」と回答しており、完全な計画断念ではないことを示唆しています。
南口広場化は継続検討
一方、福山駅南口の広場化については、市は東西の回遊性を高める方向性で検討を続けることを表明しています。2025年8月の市民との対話集会や駅前広場の協議会を経て、新たな計画案を策定する予定です。
考えられる代替案
専門家の間では、以下のような代替案が議論されています:
- 段階的な広場化:バスターミナルを残しながら、段階的に広場機能を拡充
- 地下空間の活用:地下にバス機能を配置し、地上を広場化
- 周辺街区への分散配置:複数の場所にバス機能を分散配置
- 現状改善による機能向上:大規模移設ではなく、現在地での改善
他都市の成功事例と学ぶべき点
福井市の駅前広場再構築
福井市では、駅前広場の再整備により歩行者・自転車通行量の増加、イベント数・集客数の増加、周辺商業地の地価上昇、商業床の増加、公共交通利用者の増加などの効果が現れています。
姫路市の事例
姫路市でも駅前広場の再整備により、同様の効果が報告されており、特に観光客の増加と地域経済の活性化に大きく貢献しています。
これらの成功事例は、駅前広場の再整備が地域に与える正の影響を示していますが、同時に地域の特性や関係者との調整の重要性も浮き彫りにしています。
課題解決に向けた今後の展望
関係者間の合意形成が鍵
今回の計画中断は、大規模な都市再生プロジェクトにおける関係者間の合意形成の難しさを浮き彫りにしました。JR西日本、市民、バス事業者、そして市政府の間で、それぞれの立場や利害を調整し、Win-Winの解決策を見つけることが重要です。
段階的アプローチの検討
一度に大規模な変更を行うのではなく、段階的に改善を進めるアプローチも有効かもしれません。まずは現在の課題を部分的に解決し、その効果を確認しながら次のステップを検討することで、リスクを最小化できる可能性があります。
市民参加型の計画策定
今回の経験を踏まえ、今後はより多くの市民の声を聞き、透明性の高い計画策定プロセスを構築することが求められます。市民との対話集会や協議会での議論を通じて、より多くの市民に支持される計画を策定することが重要です。

出典:中国新聞デジタル(https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/684176)
まとめ 都市再生の難しさと可能性
福山駅北口バスターミナル移設計画の一時中断は、都市再生プロジェクトの複雑さと難しさを示す事例となりました。技術的な問題、関係者の利害調整、市民の合意形成など、多くの課題が絡み合う中で、理想的な解決策を見つけることの困難さが浮き彫りになりました。
しかし、この経験は無駄ではありません。福山市にとって、より良い駅前空間を実現するための貴重な学習機会となったはずです。今後、市民の声により耳を傾け、関係者との丁寧な調整を重ねることで、多くの人に支持される新たな計画が生まれる可能性があります。
福山駅前の将来像について、市民一人ひとりが関心を持ち、建設的な議論に参加することが、魅力的な都市空間の実現に向けた第一歩となるでしょう。今回の一時中断を機に、より良い解決策が見つかることを期待したいと思います。
タグ: 福山駅, バスターミナル移設, 都市再生, JR西日本, 駅前広場, ウォーカブル空間, 公共交通, 福山市, 都市計画, 市民参加
参考文献
[1] 中国放送, 「JR福山駅北口へのバスターミナル移設 一旦ストップ JR西日本グループの施設 撤去困難が理由」, (2025年7月25日), https://news.yahoo.co.jp/articles/eaf60495a71f80221d3fb4affe1283aed9231fb8
[2] 福山市企画財政局福山駅周辺再生推進部, 「福山駅前広場再編事業について」, (2025年2月4日), https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/uploaded/attachment/299186.pdf
[3] 山陽新聞, 「福山駅の南口 全面広場化へ 議論大詰め、バス乗降場は北口へ」, (2024年12月31日), https://www.sanyonews.jp/article/1659820
[4] TBS NEWS DIG, 「JR福山駅前広場『全面広場化』で検討 北口にはバスターミナル」, (2024年9月26日), https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rcc/1450709
[5] 朝日新聞, 「にぎわう福山駅前広場へ 人工芝敷き飲食店も 25日から実証実験」, (2024年9月15日), https://www.asahi.com/articles/ASS9G41TVS9GPITB00FM.html
[6] 経済リポート, 「福山駅前の再生事業駅南口を広場にして憩いの場に交通結節点」, (2025年4月20日), https://keizai.info/special-feature/147886
[7] 日本共産党福山市議団, 「福山駅前広場再編検討、全容明らかに」, (2025年2月5日), http://www.f-jcp.com/2025/02/post-d456.html
[8] 中国新聞デジタル, 「JR福山駅北口広場の再整備、反対団体が会合」, (2025年3月1日), https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/604985
[9] TBS NEWS DIG, 「バスターミナルの北口移転に反対『福山駅北口広場を守る会』が」, (2024年12月22日), https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rcc/1632786
[10] 中国新聞デジタル, 「福山駅周辺再整備に反対の署名活動、市民団体」, (2025年5月16日), https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/643371
[11] 毎日新聞, 「JR福山駅周辺再開発 整備計画、終着点先送り バスターミナル」, (2025年3月5日), https://mainichi.jp/articles/20250305/ddl/k34/010/239000c
[12] 山陽新聞, 「福山駅南口広場化 計画策定を延期 渋滞や事故懸念、市が見直し検討」, (2025年2月5日), https://www.sanyonews.jp/article/1675553
[13] 国土交通省, 「駅まちデザインの手引き」, (2021年9月)
[14] 福山市, 「福山駅北口広場へのバスターミナル配置検討」, https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/uploaded/attachment/295334.pdf
[15] 中国新聞デジタル, 「福山駅北口バスターミナル構想、市が見直しへ」, https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/684176
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