2024
06.02

中国の月面探査機「嫦娥6号」、月の裏側に世界初の着陸成功!人類史上初の試料採取に挑む

テクノロジー, 科学技術

中国の無人月面探査機「嫦娥6号」が6月2日、月の裏側への着陸に成功しました。今後約2日間かけて、人類史上初となる月の裏側からの岩石や土壌のサンプル採取に取り組み、6月下旬には地球への帰還を目指します。この快挙は、中国の宇宙開発における大きな前進であり、月探査競争に新たな1ページを刻むものです。

1. 嫦娥6号、月の裏側「南極エイトケン盆地」に着陸

1.1 着陸までの経緯

嫦娥6号は2024年5月3日、中国の海南省文昌宇宙発射場から長征5号ロケットにより打ち上げられました。打ち上げから5日後の5月8日、月周回軌道への投入に成功。その後、約20日間かけて着陸に適した地点を探索し、6月2日午前7時過ぎに月の裏側への接近を開始、15分後に南極エイトケン盆地内のアポロ・クレーターへの着陸を果たしました。

嫦娥6号の着陸成功は、中国の月探査計画における大きなマイルストーンです。2007年に月周回衛星「嫦娥1号」の打ち上げに始まり、2013年には「嫦娥3号」による月表側への着陸、2019年には「嫦娥4号」による月裏側への着陸を実現。そして今回、サンプルリターンミッションである嫦娥6号の月裏側着陸により、中国は月探査における主要国の仲間入りを果たしたと言えるでしょう。

1.2 着陸地点の特徴と科学的意義

嫦娥6号が着陸したアポロ・クレーターは、月裏側最大の衝突盆地である南極エイトケン盆地の南部に位置しています。南極エイトケン盆地は直径約2,500kmにも及ぶ巨大なクレーターで、その形成は月の歴史の初期、今から約40億年前に起きたと考えられています。

この盆地は月のマントル物質が露出している可能性が高く、月の内部構造や形成過程を解明する上で非常に重要な地域です。また、月裏側は表側とは異なる特徴を持っており、例えば表側に多く見られる海(マリア)が裏側にはほとんど存在しません。嫦娥6号のサンプルリターンにより、こうした月裏側の地質の謎に迫ることができると期待されています。

南極エイトケン盆地の位置

2. 世界初の試み、月の裏側からのサンプルリターン

2.1 サンプル採取の方法と目標量

嫦娥6号は着陸後、ロボットアームとドリルを用いて月面の岩石や土壌を採取します。表面のレゴリスを掬い取るとともに、最大2mの深さまで掘削してサンプルを得る計画です。目標とする採取量は最大2kgで、これらのサンプルは着陸機に搭載されたアセンダー(上昇機)に格納されます。

2.2 月の裏側からのサンプル採取が難しい理由

月の裏側からのサンプルリターンが難しい最大の理由は、地球との直接交信ができないことです。月は地球に対して同じ面を向けて公転しているため、裏側は地球から見えません。そのため、嫦娥6号は単独では地球との通信ができず、中継衛星「鵲橋2号」を介してデータのやり取りを行う必要があります。

また、月の裏側は表側に比べて地形が複雑で、着陸に適した平坦な場所が少ないことも難しさの一因です。嫦娥6号は高度な障害物回避技術を駆使して、安全な着陸を成し遂げなければなりません。

2.3 サンプル分析により期待される科学的発見

嫦娥6号が持ち帰る月の裏側のサンプルは、月の起源と進化、ひいては地球や太陽系の形成史を解明する上で非常に貴重な手がかりになると考えられています。特に、南極エイトケン盆地の岩石からは、月のマントル組成に関する情報が得られると期待されています。

また、月の表側と裏側のサンプルを比較分析することで、両者の地質学的な違いが明らかになるかもしれません。これにより、月の熱史や内部進化のプロセスに新たな知見がもたらされる可能性があります。

3. 中国の野心的な月探査計画

3.1 嫦娥計画の歩みと成果

中国の月探査計画「嫦娥計画」は、2004年に正式にスタートしました。当初の目標は「周回、着陸、帰還」の3段階に分けて月探査を進めることでした。

第1段階では、2007年に「嫦娥1号」、2010年に「嫦娥2号」の周回衛星を打ち上げ、月の全球観測を行いました。第2段階では、2013年に「嫦娥3号」による月表側への着陸、2019年には「嫦娥4号」による月裏側への着陸を成功させ、月面探査車「玉兎号」による月面探査を実施しました。

そして現在は第3段階のサンプルリターンミッションが進行中で、2020年には「嫦娥5号」が月の表側からのサンプル採取に成功。今回の嫦娥6号による月裏側サンプルリターンにより、嫦娥計画は当初の目標を全て達成することになります。

3.2 有人月面探査と月面基地建設の目標

中国は2030年までに独自の有人月面探査を実現する計画を発表しています。また、月の南極域に科学研究基地を建設することも構想に含まれています。これらの野心的な目標は、嫦娥計画で培った技術と知見の上に成り立っています。

月面基地建設については、ロシアとの協力も視野に入れられています。両国は2017年、月と深宇宙探査に関する協力協定を結んでおり、月面基地の共同建設や、有人宇宙飛行での連携などが期待されています。

3.3 月資源開発への布石

月には、ヘリウム3などの希少資源が豊富に存在すると考えられています。ヘリウム3は核融合発電の燃料として有望視されており、将来のエネルギー問題を解決する鍵になるかもしれません。中国は月面探査を通じて、こうした月資源の分布や埋蔵量を把握し、将来の資源開発に備えようとしています。

また、月の水氷は、月面拠点での長期滞在を可能にする上で不可欠な資源です。嫦娥計画では、月の南極域での水氷の存在を確認することも重要な目的の一つとなっています。

4. 各国の月探査競争の行方

4.1 アメリカの「アルテミス計画」

アメリカは、2024年までに再び有人月面探査を行う「アルテミス計画」を進めています。アルテミス計画では、月の南極域への着陸と、月周回軌道上の宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設を目指しています。将来的には、月面での持続的な活動を可能にする拠点の建設も構想されています。

4.2 日本とインドの月探査の現状

日本は、2022年に月着陸機「SLIM」の打ち上げに成功しました。SLIMは、ピンポイント着陸技術の実証を主な目的としています。また、2024年には月面探査車「LUPEX」の打ち上げを計画しており、月の水氷や資源の探査を行う予定です。

インドは2019年、月着陸機「チャンドラヤーン2号」の打ち上げに成功しましたが、着陸直前に通信が途絶え、ハードランディングに終わりました。しかし、2024年には再挑戦となる「チャンドラヤーン3号」の打ち上げを予定しており、月南極域での水氷の探査を目指しています。

4.3 民間企業の参入と月面開発ビジネスの可能性

近年、スペースXやブルーオリジンといった民間宇宙企業が月探査への参入を表明しています。これらの企業は、月面での資源開発や宇宙旅行などの商業的な可能性に着目しています。

例えばスペースXは、月周回旅行の実現を目指す「dearMoon」プロジェクトを発表。ブルーオリジンは、月面での資源採掘や宇宙居住施設の建設を視野に入れています。こうした民間企業の参入により、月探査と月面開発は新たな局面を迎えようとしています。

5. 月探査が人類にもたらす意義と展望

5.1 科学的知見の獲得

月探査は、月の起源と進化、ひいては地球や太陽系の形成史を解明する上で欠かせません。特に、嫦娥6号のような月裏側からのサンプルリターンは、未知の領域に切り込む画期的な成果をもたらすでしょう。月探査を通じて得られる科学的知見は、我々の宇宙観を大きく変える可能性を秘めています。

5.2 技術革新の促進

月探査では、ロケット、宇宙船、ロボット工学など、様々な分野の最先端技術が結集されます。挑戦的な月探査ミッションに取り組むことで、これらの技術は飛躍的に進歩します。月探査で培われた技術は、地上の産業にも応用され、私たちの暮らしを豊かにしてくれるでしょう。

5.3 人類の活動領域の拡大と宇宙開発の未来

月は、人類が地球を離れて活動する最初のステップです。月面での長期滞在や資源利用が可能になれば、人類の活動領域は大きく広がります。さらに、月は火星などの深宇宙探査の拠点としても重要な役割を果たすと考えられています。

月探査は、人類が宇宙へと踏み出す壮大な物語の始まりに過ぎません。嫦娥6号の快挙は、その物語に新たな1ページを加えるものです。今後の月探査の進展が、人類の未来に大きな希望をもたらしてくれることを期待したいと思います。

月面基地のイメージ図

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