07.21

ジョニー・アイブはオワコンなのか?OpenAI買収で明かされた伝説デザイナーの驚きの復活戦略
Apple離脱後の5年間で、誰もが想像しなかった新たなキャリアを築いてきたジョニー・アイブ。2025年5月21日に発表されたOpenAIによる「io」買収は、デザイン界の王者が決して過去の人ではないことを証明しました。むしろ、彼は次世代テクノロジーの最前線で、再び革命を起こそうとしているのです。

出典:The New York Times
ジョニー・アイブの「消失」とLoveFromの謎めいた活動
2019年、iPhone、iPad、MacBookなど数々の革新的デザインを手掛けたジョニー・アイブがAppleを離れた時、多くの人が疑問を抱きました。「なぜ今なのか」「次は何をするのか」そして最も重要な質問:「彼はもう過去の人なのか」。
LoveFromの公式サイトは長い間、ミニマリストなタイトルと独自開発の書体のみを表示していました。この極端にシンプルな姿勢は、シリコンバレーでは「ジョニー・アイブは5年間かけて書体をデザインしただけ」という冗談の対象となっていたのです。しかし、その裏では壮大な計画が進行していました。
LoveFromの真の実力:多様なクライアントとの成功
実際のところ、LoveFromは決して停滞していませんでした。過去5年間で、アイブと彼のチームは印象的なポートフォリオを築き上げていたのです:
主要プロジェクト実績
- Ferrari初の電気自動車:内装デザインとタッチスクリーンインターフェース
- Airbnb:レビューシステムの再設計と「トラベルポストカード」コンセプト開発
- Moncler:革新的なマグネット式ボタンを採用したモジュラージャケット(2024年秋発売)
- チャールズ国王:持続可能市場イニシアチブ「Terra Carta Seal」のデザイン
- Linn Audio:50周年記念の限定版ターンテーブル「Sondek LP12」

出典:Cult of Mac(Monclerコラボレーション)
サンフランシスコのジャクソンスクエア:9000万ドルの投資の真意
アイブの最も野心的な投資は、サンフランシスコのジャクソンスクエア地区での不動産取得でした。パンデミック中に多くのテック企業がサンフランシスコから撤退する中、彼は逆張りを選択し、約9000万ドル(約130億円)を投じて単一街区の半分を購入しました。
「私はこの街に多くのものを負っている」とアイブは語ります。「才能ある人々がこの地域に引き寄せられてきたのに、問題が起こるとすぐに去っていく。それは間違っている」The New York Times
建物購入の戦略的意図
この投資には明確な戦略がありました:
- クリエイティブハブの創造:LoveFromのスタジオ兼ストア
- 庭園付きコワーキングスペース:中庭を緑地化した交流の場
- AI企業「io」の本社:OpenAIとの協業プロジェクト基地
建物群の中央にある駐車場を緑地に変換する計画も含め、この投資は単なる不動産取得ではなく、サンフランシスコのクリエイティブコミュニティ復活への貢献でもあったのです。
OpenAIとの「秘密の協業」:2年間の準備期間
最も驚くべき発見は、アイブとOpenAIのサム・アルトマンCEOが2年以上前から秘密裏に協業していたことです。この協力関係は偶然ではなく、戦略的な人脈を通じて生まれました。
運命的な出会いの経緯
2023年、AirbnbのCEOブライアン・チェスキーがアレンジした夕食会で、アイブとアルトマンは初めて対面しました。ミシュラン星付きレストラン「Spruce」での会話で、二人はAIが従来のソフトウェアを超える可能性について語り合いました。
「生成AIは新しいコンピューティングデバイスを作ることを可能にする。なぜなら、従来のソフトウェアよりもユーザーのためにもっと多くのことができるからだ」とアイブは当時の会話を振り返ります。

出典:Cybernews
「io」の誕生と進化
2024年、アイブは正式にAIハードウェア企業「io」を設立しました。この会社には、iPhone製品開発を統括していたタン・タン氏、アイブの後任としてAppleのデザイン責任者を務めたエヴァンス・ハンキー氏など、Apple時代の優秀な人材が集結しました。
2025年2月には、LoveFromの中庭に隣接する「Little Fox Theater」を6000万ドルで購入し、ioの本社として使用開始。同年5月21日、ついにOpenAIによる65億ドル(約9300億円)での買収が発表されました。
批判への反論:「形より機能」論争の決着
アイブのキャリアには常に「形を機能より優先する」という批判がつきまとってきました。MacBookの薄さを追求しすぎてキーボードが故障しやすくなったり、17,000ドルのApple Watch Editionが市場で失敗したりした経験もあります。
しかし、LoveFromでの活動は、彼がこの批判から学び、より実用性を重視したアプローチを取っていることを示しています。
実用性を重視した新しいデザイン哲学
Monclerジャケットの革新性
- 単一の布片からシームレスに作られた構造
- AirPodsケースのような感触のマグネット式ボタン
- 3つの異なるスタイルに変形可能なモジュラー設計
Ferrariの電気自動車プロジェクト
- アナログからデジタルへの自然な移行
- ドライバーの物理的な体験を重視したステアリング設計
- スポーツカーとレーシングカーの歴史的要素の継承
これらのプロジェクトは、美しさと機能性を両立させるアイブの成熟したデザイン哲学を反映しています。
LoveFromの財務的成功:年間2億ドルの事業規模
「オワコン」という批判に対する最も説得力のある反論は、数字です。LoveFromは現在、年間最大2億ドル(約280億円)の収益を上げており、50人のチームを抱える成功した企業となっています。
収益源の多様化
- クライアントワーク:Ferrari、Airbnb、Monclerなどとの長期契約
- 自主プロジェクト:不動産開発、書体開発、研究活動
- 将来の製品販売:LoveFromストアでの独自商品販売予定
この成功は、アイブが単なるデザイナーではなく、優秀なビジネスリーダーでもあることを証明しています。
AI時代の到来:アイブが見る「第三の革命」
アイブとアルトマンが目指しているのは、スマートフォンに続く次世代コンピューティングデバイスです。彼らは、AIが人間とテクノロジーの関係を根本的に変える可能性があると考えています。
「画面のないデバイス」という挑戦
OpenAIとの協業で開発中のデバイスは、従来のスクリーンベースのインターフェースから脱却した「画面のないAIデバイス」と噂されています。これは、音声と自然言語処理を中心とした全く新しいユーザー体験を提案するものです。
「コンピューターは今、見て、考えて、理解している。しかし、私たちの体験は依然として従来の製品とインターフェースに縛られている」とアイブは述べています OpenAI。
2026年のデバイス発表に向けて
業界関係者によると、OpenAI・LoveFrom連合の新デバイスは2026年中の発表が予定されているとのことです。このデバイスが成功すれば、アイブは再び業界に革命をもたらすことになります。
慈善活動と社会貢献:デザイン教育への投資
オワコン論に対するもう一つの反論は、アイブの社会貢献活動です。彼は将来のデザイナー育成にも積極的に投資しています。
LoveFrom奨学金プログラム
2023年4月、アイブは3つの権威ある教育機関に各150万ドルの基金を設立しました:
- Royal College of Art(ロンドン)
- Rhode Island School of Design(アメリカ)
- California College of the Arts(カリフォルニア)
この奨学金は、デザイン業界の多様性不足に対処し、過小評価されているコミュニティの学生を支援することを目的としています。
その他の社会貢献活動
- Comic Relief:2023年のRed Nose Dayのために、折りたたみ可能でリサイクル可能な赤い鼻をデザイン
- Steve Jobs Archive:ジョブズの文書集『Make Something Wonderful』の出版とウェブサイトデザインを担当
世界のデザイン界からの評価:復活への期待
デザイン業界の専門家たちは、アイブの近年の活動を高く評価しています。
「ジョニーの仕事の過程で払う注意の量は並外れている」とOpenAIのアルトマンCEOは述べています。「技術、デザイン、そして人々と世界への理解の交差点での作業は、彼とそのチームにしかできない」。
ExorのCEOジョン・エルカン氏も、LoveFromのプロセスに感銘を受けていると語ります。「ステアリングホイールについて数時間議論し、ドライバーがどのように握るべきか、その物理性が何を意味するかについてジョニーが明確に示したことは、本当に、本当に違うものだった」The New York Times。
批判的視点:リスクと課題
一方で、アイブの現在の取り組みにはリスクも存在します。
不動産投資のリスク
サンフランシスコの商業不動産市場は依然として低迷しており、オフィス空室率は3分の1を超えています。コーニング社CEOのウェンデル・ウィークス氏は、アイブの不動産投資を心配しています。
AI業界の不確実性
AI業界は急速に変化しており、今日の革新が明日には陳腐化する可能性があります。OpenAIとの協業が成功する保証はありません。
高価格商品への懸念
Monclerコラボレーションジャケットの価格は2000ドル以上と高額で、一般消費者にはアクセスしにくい価格設定です。
結論:アイブはオワコンではない、むしろ進化している
証拠は明確です。ジョニー・アイブは決してオワコンではありません。むしろ、彼は過去の成功に安住せず、次世代のテクノロジーとデザインの融合を模索し続けています。
なぜ今「復活」と言えるのか
- 財務的成功:年間2億ドルの収益を上げる成功企業の経営
- 影響力のある協業:OpenAI、Ferrari、Airbnbなど業界リーダーとの継続的なパートナーシップ
- 技術革新への挑戦:AI時代の新しいインターフェース開発
- 社会貢献:次世代デザイナーの育成への投資
彼の真の価値:経験と直感の融合
「私が学んでいることは、これまで以上に自分の直感を信じることだ」とアイブは語ります。30年以上のキャリアで培った経験と、変化し続けるテクノロジー環境への適応能力。この組み合わせこそが、彼を現在でも業界の最前線に置く理由なのです。
2026年に発表予定のAIデバイスが成功すれば、ジョニー・アイブは再び世界に革命をもたらすでしょう。失敗すれば、確かに厳しい批判を受けるかもしれません。しかし、現時点での彼の活動を見る限り、「オワコン」という評価は明らかに時期尚早です。
むしろ、彼はApple時代の制約から解放され、より自由で創造的な環境で、次の大きな飛躍に向けて着実に準備を進めている。これこそが、真のイノベーターの姿なのではないでしょうか。
参考文献
[1] OpenAI, “A letter from Sam & Jony”, (2025年5月21日), https://openai.com/sam-and-jony/
[2] The New York Times, “After Apple, Jony Ive Is Building an Empire of His Own”, (2024年9月21日), https://www.nytimes.com/2024/09/21/technology/jony-ive-apple-lovefrom.html
[3] The Wall Street Journal, “アップル元幹部アイブ氏、オープンAIでデザイン指揮へ”, (2025年5月22日), https://jp.wsj.com/articles/former-apple-design-guru-jony-ive-to-take-expansive-role-at-openai-f37c0692
[4] ITmedia, “OpenAI、Appleの元デザイン責任者アイブ氏の企業を65億ドルで買収”, (2025年5月22日), https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2505/22/news096.html
[5] WIRED Japan, “OpenAI、「io」を完全買収。ジョナサン・アイブと”AIハードウェア”, (2025年5月22日), https://wired.jp/article/jony-ive-open-ai-hardware-io/
[6] Forbes Japan, “アップルの元デザイン責任者ジョニー・アイブ、OpenAIとの協業で10億ドル企業家へ”, (2025年5月26日), https://forbesjapan.com/articles/detail/79409
[7] Gigazine, “OpenAIがAppleの元デザイナーであるジョニー・アイブのデバイス企業「io」を買収”, (2025年5月22日), https://gigazine.net/news/20250522-openai-buy-jony-ive-io/
[8] Watch Impress, “OpenAI、ジョニーアイブ氏の「io」を合併 新デバイスは「来年」”, (2025年5月22日), https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2016210.html
[9] Dezeen, “Jony Ive teams up with Moncler on simple and joyful outerwear collection”, (2024年9月24日), https://www.dezeen.com/2024/09/24/jony-ive-lovefrom-moncler-outerwear-collection/
[10] Fast Company, “Jony Ive’s LoveFrom reinvents the button with Moncler”, (2024年9月), https://www.fastcompany.com/91185536/jony-ives-lovefrom-reinvents-the-button-with-moncler
[11] Cult of Mac, “Jony Ive jacket design features innovative ‘duo button”, (2024年9月), https://www.cultofmac.com/news/jony-ive-jacket-moncler
[12] Wikipedia, “LoveFrom”, https://en.wikipedia.org/wiki/LoveFrom
[13] WWD, “Moncler Launches Outerwear Collection With Jony Ive & LoveFrom Collective”, (2024年9月24日), https://wwd.com/fashion-news/designer-luxury/moncler-jony-ive-launching-outerwear-collection-lovefrom-collective-1236641304/
[14] The Business Journals, “Apple-linked design firm LoveFrom acquires Jackson Square building for $60M”, (2024年2月13日), https://www.bizjournals.com/sanfrancisco/news/2024/02/13/lovefrom-jony-ive-535-pacific-clint-reilly.html
[15] LoveFrom Official Website, https://lovefrom.style/
タグ: ジョニー・アイブ, LoveFrom, OpenAI, デザイン, Apple, AI, サンフランシスコ, イノベーション, テクノロジー, io買収
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