2025
06.23

実在の指名手配犯・桐島聡を描いた映画「桐島です」と「逃走」

16【エンタメ】

はじめに

2024年1月、神奈川県の病院で一人の男性が「私は桐島聡です」と名乗り、その4日後に亡くなりました。この一言が日本中を驚かせたのは、桐島聡が1970年代の連続企業爆破事件に関与したとして約50年間にわたり指名手配されていた人物だったからです。

この衝撃的な出来事を受け、桐島聡の謎めいた人生を描いた2つの映画が制作されました。高橋伴明監督・梶原阿貴脚本の「桐島です」と、足立正生監督・脚本の「逃走」です。本記事では、この2作品の背景にある実話の要素や、作品が私たちに投げかける問いについて掘り下げていきます。過去の政治的混乱と現代を繋ぐ物語が、なぜ今の観客の心を揺さぶるのか—その秘密に迫ります。

桐島聡とは—実在した指名手配犯

桐島聡のプロフィール

桐島聡は、1970年代に「東アジア反日武装戦線」のメンバーとして活動し、連続企業爆破事件に関与したとして爆発物取締罰則違反と殺人未遂の疑いで全国に指名手配された人物です。1975年に指名手配されてから約49年間、「内田洋」という偽名で神奈川県藤沢市で生活していたことが明らかになっています。

主な事件と逃亡生活

桐島聡が関与したとされる主な事件:

  • 1974年8月30日:三菱重工爆破事件(死者8人、負傷者376人)
  • 1975年4月19日:銀座「韓国産業経済研究所」ビル爆破事件

桐島は指名手配後、約50年にわたって逃亡生活を送りました。藤沢市内の土木関係の会社で住み込みで働き、地元では「うーやん」の愛称で親しまれていたといいます。2024年1月、末期がんで入院中に本名を名乗り、その4日後に70歳で死亡しました。

映画「桐島です」の概要

作品のあらすじ

映画「桐島です」は、高度経済成長期の日本で、大学生だった桐島聡が反日武装戦線の活動に共鳴し、組織と行動を共にする物語です。1974年、三菱重工爆破事件で多数の犠牲者を出したことで深い葛藤に苦しむ桐島は、組織が警察に追われる中、単独での逃亡を決意します。

「内田洋」と名乗り、神奈川県藤沢市で土木作業員として生きる桐島。約50年の逃亡生活の末、末期がんと診断された彼は、病院のベッドで「桐島です」と本名を名乗ります。映画は桐島の知られざる半生を、報道・史実を元にフィクションを織り込んで描いています。

制作陣と出演者

  • 監督:高橋伴明
  • 脚本:梶原阿貴
  • 出演:毎熊克哉(桐島聡役)、奥野瑛太、北香那、原田喧太、山中聡、影山祐子、テイ龍進 他
  • 公開日:2025年7月4日(新宿武蔵野館ほか全国順次公開)

映画「逃走」の概要

作品のあらすじ

「逃走」は、元日本赤軍メンバーという経歴を持つ足立正生監督が、自身の半生と重ねあわせながら、桐島聡の苦悩と決意を描いた作品です。社会運動が高揚していた1970年代の日本で、東アジア反日武装戦線「さそり」のメンバーとなった桐島聡が、重要指名手配され逃亡の日々を送る姿を描きます。

生活を繋ぐため日雇い仕事を転々とし、数十年前から「内田洋」という偽名で藤沢市内のバーで働いていた桐島。2024年、70歳となった彼は末期がんと診断され、病院のベッドで生死の狭間を彷徨います。薄れる意識の中で浮かんでくるのは、東アジア反日武装戦線としての活動、仲間との逃亡、そして「桐島聡」という本名を名乗る決意です。

制作陣と出演者

  • 監督・脚本:足立正生
  • 出演:古舘寛治(桐島聡役)他
  • 公開日:2025年3月15日(ユーロスペースほか全国順次公開)

作品の魅力と見どころ

実在の人物を描く難しさと挑戦

両作品とも、実在し、かつ未解明の部分が多い人物を描く難しさに挑んでいます。「桐島です」の主演・毎熊克哉は「どれだけ事件のことを調べても、ほとんど彼のことはわからない」と語り、「実在する桐島聡という人のことはわからないので、外見を似せようとしたりはせず、監督が描いたフィクションの人物を演じた」と述べています。

両作品は、限られた情報から桐島聡という人物の内面や、彼が50年もの間逃亡生活を送った理由、そして死の直前に本名を名乗った意味を探る試みとなっています。

社会と個人の葛藤

両作品は単なる実話に基づくドラマにとどまらず、「社会変革のために暴力は正当化されるのか」「個人の幸福と社会正義はどう両立するのか」といった重い問いを投げかけます。

特に「逃走」の足立正生監督は、元日本赤軍メンバーという自身の経験を踏まえ、「桐島聡が死ぬ直前に本名を名乗ったのはいったいどうしてなのか」という問いを掘り下げています。足立監督は「家族の側から見れば、桐島聡の顔写真が49年間貼り出されてるし、隣近所への聞き込みや張り込みもすごかった」と語り、桐島を取り巻く状況の複雑さを描き出しています。

作品の社会的意義

歴史の再検証

両作品の重要な側面は、現代の日本人が忘れがちな1960〜70年代の政治的混乱期を掘り起こし、再検証する点にあります。若い観客にとっては初めて知る歴史であり、当時を生きた世代にとっては異なる視点から見直す機会となっています。

「桐島です」の高橋伴明監督と梶原阿貴脚本家は、「歴史を忘れることは、同じ過ちを繰り返す危険性をはらむ」という信念から、この題材に挑んだと語っています。

実在の人物を描くことの倫理

両作品は、実在の人物を描く際の倫理的な問題にも向き合っています。桐島聡は犯罪者として指名手配された人物であり、その行為によって多くの被害者が生まれました。一方で、彼は約50年間、普通の市民として生き、地域に溶け込んでいました。

このような複雑な人物をどう描くべきか、被害者感情にどう配慮すべきか、という問いは両作品に通底するテーマとなっています。

批評家と観客の反応

専門家の評価

映画評論家からは、「政治的に微妙なテーマを扱いながらも、イデオロギー的な偏りを避け、人間ドラマとして普遍性を獲得している」と高く評価されています。

一方で、「実際の歴史的事件との距離感が曖昧」「政治的メッセージが希薄化している」という批判も一部にあります。

観客の反応

一般観客からは、「当時の社会背景を知ることができた」「人間の複雑さを描いている」といった感想が多く寄せられています。特に40〜50代の観客からは「自分の親世代の生きた時代を理解する助けになった」という声が目立ちます。

まとめ

高橋伴明監督の「桐島です」と足立正生監督の「逃走」は、約50年間逃亡生活を送った後、2024年1月に死亡した桐島聡という実在の人物の謎めいた人生を描いた作品です。両作品は、単なる実話に基づくドラマを超え、私たちに「社会と個人はどう関わるべきか」「歴史とどう向き合うべきか」という問いを投げかけています。

過去の出来事を描きながらも、現代に生きる私たちの心に響くのは、そこに普遍的な人間の葛藤が描かれているからでしょう。もし機会があれば、ぜひこれらの作品を観て、日本の現代史の一側面に触れてみてください。異なる世代の視点から見た感想を共有することで、新たな発見があるかもしれません。

参考文献

  1. 映画「桐島です」公式サイト (2025年)
  2. 映画「逃走」公式サイト (2025年)
  3. NHK, 「WEB特集 『自分の名前は桐島聡』 逃亡半世紀の果てに」 (2024年)
  4. 朝日新聞, 「『桐島聡』名乗る男が死亡…真相明かすことなく 約40年暮らした藤沢市のバーで『うーやん』と親しまれていた」 (2024年)
  5. 映画.com, 「『桐島です』:作品情報・キャスト・あらすじ・動画」 (2025年)
  6. 東洋経済オンライン, 「がん死した男が名乗った逃亡50年『桐島聡』の人生」 (2024年)

キーワード: 桐島聡, 指名手配犯, 東アジア反日武装戦線, 映画「桐島です」, 映画「逃走」, 高橋伴明, 足立正生, 梶原阿貴, 毎熊克哉, 古舘寛治, 連続企業爆破事件, 1970年代, 学生運動

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